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武蔵大学 2019年度 後期 メディア社会学方法論ゼミ【松谷創一郎】

「流行りのアニマルカフェは動物を救うのか?」 日本の動物愛護精神の問題と展望

 

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ネコリパブリック池袋店(2019年11月25日、ネコリパブリック池袋店、滝本里緒撮影)。(最初のページで使用する写真)

流行りの「アニマルカフェ」ではたくさんの動物が働いている。最近のアニマルカフェは、カフェといっても飲食に重きはおいておらず、動物との触れ合いができる場のことをいう。昔は、一風変わった新しいカフェとして「猫カフェ」が主流だったが、現在は犬、フクロウ、ウサギ、ハリネズミ、子ブタ、爬虫類といった様々な動物がいるのが特徴だ。その中でも「ふくろうカフェ」は特に人気で、人の多く集まる浅草、池袋、表参道に軒を連ねる。最近では外国人観光客も多く訪れるという。

「ふくろうカフェ」では、普段見ることも触れることもないフクロウを、なでたり、自分の腕や肩にのせて触れ合うことができる。フラッシュなしであれば写真を撮ることが可能で、その様子を撮ると「インスタ映え」になることから女性を中心に人気がある。しかし、店の主役であるフクロウの労働環境は非情なものだ。今回、池袋の某ふくろうカフェに潜入調査をすることで、その実態を明らかにした。

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Instagramなどでよく目にするフクロウを腕に乗せた写真(2019年10月29日、池袋の某ふくろうカフェ店内、滝本里緒撮影)。

 

【拘束されたフクロウたち】

ふくろうカフェでフクロウは「リーシュ」と呼ばれるひもで足をつながれ、行動を制限されている。その行動範囲は半径20~30cmほどで、リーシュを嫌がり噛んでいる姿もみえた。フクロウの周辺は止まり木とその下のトイレシーツ以外は何もなく、水も置いていない。また、別室で休憩をさせたり、閉店後の狭い店内を飛ばせてもらうことはあるらしいが、外に出ることはなく24時間365日ずっと室内にいることになる。フクロウは狭い室内に何匹も展示されていて中には、一本の止まり木に4匹も止まっていることもあった。また、止まり木は地面から50cmほどの低いもので、お客がフクロウを見下ろす形式。さらに、店員がフクロウを腕に乗せて店の外で集客をする様子も見た。

フクロウは夜行性で、暗いところでも音や光を頼りに狩りをすることができるほどの感知度を持つ。また、狩りをするために、高い場所にとまり全体を見渡す習性がある。それらの習性に配慮することなく、常にこのような環境に置かれたフクロウは、一瞬たりとも気が休まらないであろう。

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リーシュを噛み抵抗をみせるフクロウ(2019年10月29日、池袋の某ふくろうカフェ店内、滝本里緒撮影)。

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近距離で展示されているフクロウたち(2019年10月29日、池袋の某ふくろうカフェ店内、滝本里緒撮影)。

 日本はフクロウに対してだけでなく、全体的に動物への配慮が欠けているといえるのかもしれない。例えば、日本のペットショップの実情はひどいものだ。商品となる犬猫は、幼ければ幼いほど需要が高く、商品価値が上がることから、日本では母犬から犬としての生活を身につける大事な期間(社会化期と呼ばれる生後3~12週)を終える前に商品として出荷される。また、売れ残り8か月を迎えた犬は、商品として価値がないとみなし、保健所に連れていかれるケースもある。さらに、動物販売システムに携わる業者の間には、「抱っこさせたら勝ち」という格言が存在する。ぬいぐるみのようにかわいい子犬、子猫のぬくもりをじかに感じさせ、その魅力で消費者の判断力を奪い、売ってしまおうとする手法だ。このような押し売りの結果、無責任な飼い主が増え、捨て犬、捨て猫を生む。そうした流れで、日本では2017年4万3216匹の犬猫が殺処分されたのである(太田匡彦『犬を殺すのは誰かーペット流通の闇』2016年/朝日文庫)。

しかし動物の殺処分数は(図1)のように年々減少傾向にある。この背景には、動物愛護法の整備、改正が働いて保健所に持ち込まれる動物が減ったということが大きい要因としてあるが、捨てられた犬猫や保健所に持ち込まれた動物を引き取り、保護、里親探しを行う動物愛護ボランティア団体の存在がある。また最近、そうした活動はボランティアの枠を超えて「ビジネス」として確立しているものもある。

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(図1) 環境省:全国の犬・猫の殺処分数の推移 (https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html

 

【アニマルカフェの新展開】

人の娯楽である前に動物を最優先に考えた「里親カフェ」という新しいお店が数を増やしている。ここでは、保護されたのち去勢、避妊手術(TNR)を終えた猫犬の新しい家族を探すべく、アニマルカフェの形で人と動物の触れ合いの場を設け、新しい家族を探すことを目的としている。

都内で里親カフェ「CATS AND DOGS CAFE」を営む吉田智恵子氏はこう語る。

 この店は当初、保護猫シェルターを目的としてできたものでしたが、商売可能な物件だったことからカフェ要素を取り入れ、飼い主と猫をつなぐ場所となる『里親カフェ』になりました。ここのいるのはすべて地域やセンターから保護した猫で、センターや多頭崩壊施設から保護した犬もいます。CATS AND DOGS CAFEは、墨田区曳舟駅から徒歩10分と駅からやや離れた静かな場所にあり、動物にとってもストレスがかかりにくいことを考えています。寄り道をするような立地ではないことから、本気で里親になろうと思って来る人が多く、動物に対して乱暴な扱いをする客は少ないです。ここでは、安易な気持ちでの里親希望者への譲渡はしません。譲渡条件を満たし準備を行った人しか里親になることはできません。また、ここでは里親になった方などお店に足を運ぶ人からは、多く寄付金が寄せられます。テレビなどで保護犬猫の特集が放送されると多くの視聴者から寄付金が集まり、ケガをした動物の治療費は賄えているのです。

 店内の猫のスペースは、ケージ、猫用ベッド、キャットタワーがあり各々スペースでくつろいでいた。猫を中心に考えているため、営業中にもエサをあげる時間があり、客の目に見えづらい所に猫用トイレがあるため、自由にトイレに行くことができる仕様であった。全体的に子猫が多く、人が来て猫じゃらしを何匹も集まりじゃれて遊んでくれる。そのような癒しの空間であることから、仕事帰りの会社員なども足を運ぶらしい。また、犬のスペースは「ドッグカフェ」のようになっていて、飼い犬を連れていくことが可能である。

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自由に過ごす猫たち(2019年11月21日、CATS AND DOGS CAFE店内の猫ブース、滝本里緒撮影)。

 こうした愛護精神のもとにできたCATS AND DOGS CAFEは、ふくろうカフェと比べて、動物がストレスを感じないことを一番に意識した運営になっていることから、動物に優しく、かつ保護犬猫の里親を探すというスタイルは殺処分から動物を救っているといえるだろう。しかし、CATS AND DOGS CAFEはお金儲けはしていないのでボランティア活動と言えるかもしれない。ふくろうカフェのように利益を上げることは、お店の継続にもつながる。

 里親カフェといった活動は、ボランティアの枠を抜けずらいのかもしれないと思われたが、ネコリパブリックは、「2022年2月22日までに日本の猫の殺処分ゼロに! カフェで保護猫たちの里親探しを行いながら、ビジネスとしても『自走』できること」を目指している。

 ここでは、生後7か月以上の大人猫のみがいる。子猫は里親が見つかりやすいが、大人猫はそうはいかない。そんな大人猫にスポットライトを当て、猫の性格など知って里親とつなぐ機会をネコリパブリックでは提供しているのだ。ここでは、いくつかの保護団体と提携して、元野良猫や他頭飼育崩壊になった猫など様々な理由を抱えた猫が集まる。ネコリパブリックは、岐阜県大阪府、東京都、広島県と各地に店を展開し、ビジネスとして成り立つためにカフェの利用だけでなく、雑貨やペット用品も販売している。また、ブランドイメージを持たせるために、ネコリパブリックを「猫共和国」とし、「入国確認書」といわれる「猫と触れ合うためのルール」を読み、パスポートを取得してから入国するという世界観がある。これは、客が猫を不適切に扱わないようにしたものでもある。また、里親になるには、審査を通らなければいけないというルールがある。

ネコリパブリック池袋店店長・上野佳世子氏から、お店の特色を伺った。

 ここでは、猫のパーソナルスペースを確保するために12匹以上増やさないというルールを設けています。ここではだいたい、月に2、3匹のペースで里親が決まっています。また、ネコリパブリック池袋店では来店したお客の募金の他に通販サイト・Amazon Japanが2019年6月から開始した「動物保護施設 支援プログラム」を用いて、ペットシートやキャットフードの寄付を受けています。

このプログラムは、Amazonを通じて動物保護団体の「ほしい物リスト」から商品を購入することで、それらが支援物資として各施設に届けられる仕組みだ。「ほしい物リスト」のこのような使われ方は日本独自だという。また、清潔感のある店内はどこを撮っても映える写真になりSNSで活発に写真をアップし宣伝的役割も果たしていることが分かった。

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お気に入りの場所でくつろぐ猫(2019年11月25日、ネコリパブリック池袋店店内、滝本里緒撮影)

ペットショップの役割は、商品となる動物の世話、生体販売、ペット用品販売と主に3つある。ネコリパブリックでは、動物愛護精神のもとにできた里親カフェながら、さまざまな工夫でビジネスとしても確立しており、ペット用品の販売、チェーン展開している様子は、里親カフェではなくペットショップの生体販売以外の役割を感じさせるものであった。

以上のような取り組みのおかげで、(図2)にあるように犬猫の譲渡数は増加していっている。

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(図2) 環境省:全国の犬・猫の返還・譲渡数の推移 (https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html

 

【幸せな動物を1匹でも多く】

今回ふくろうカフェと里親カフェの2店を比べて、動物を営利目的でしか見ていない店、動物愛護を目的にしている店、と経営目的に大きな差があることが分かった。上記で述べたように、ひどい環境であるふくろうカフェが流行っているということは、多くの人々は動物目線で飼育環境を考えておらず、自らの娯楽でしか捉えていないということだ。これは、これからの動物愛護を考えたときに問題であると考える。また、ここまで数多くの動物が殺処分されている現状があるにも関わらず、新たな命を生み出させ、それをペットショップで買うという日本では当たり前のシステム自体が、1人1人の動物愛護精神を欠落させているのではないか。

動物を殺処分から救うための里親カフェをみて、多くの人々が動物愛護精神を持ち、動物を殺処分から救うためには、ペット用品の販売を里親カフェが担い、ブリーダーから仕入れて販売するペットショップの数を減らしていくことがこれからは必要だと考える。

ビジネスとして確立している里親カフェは、ペット用品の販売、チェーン展開している部分に関してはペットショップの生体販売以外の役割に近づいていた。里親カフェで動物に触れたり、遊んだりできることは、ショーケースに入っていて、抱っこだけできるペットショップとは違い、動物の自然な姿を見て性格を知ることができ、より飼育の検討を促せるのではないかと思う。

動物を飼育したいと考えたときに、ペットショップから「買う」のではなく、保護犬・猫の「里親になる」という発想を一人でも多く持つことが、日本の当たり前のシステムを変えるために重要であり、動物への配慮を考えるきっかけになることを願う。

 

参考文献

藤野和義「ソーシャル・イノベーションの普及にむけて―保護犬の「里親探し」サービスを始めたペットショップの事例―」(2018/九州国際大学国際・経済論集)

原田 勝広, 高木 久夫「「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の犬猫 殺処分ゼロへの適用可能性について」の研究」(2016/明治学院大学教養教育センター付属研究所年報

内部告発―フクロウカフェ」(2017/ANIMAL RIGHTS CENTER)https://arcj.org/issues/entertainment/zoo/zoo1011/

「ネコリパブリック」https://www.neco-republic.jp/about-np.html

「CATS AND DOGS CAFE」http://cats-and-dogs.cafe/cafe/

環境省https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html

太田匡彦 『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』 (2016年/朝日文庫

 

取材・文/滝本里緒