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武蔵大学 2019年度 後期 メディア社会学方法論ゼミ【松谷創一郎】

学生×インフルエンサー 〜Instagramを使った二足のわらじ〜

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Instagramとは? インスタグラマーとは?

 若者を中心に大人気の"Instagram"は写真投稿型のSNSである。アプリ1つで撮影、文字入れ、トリミング、色調や彩度を簡単に加工することができる。Instagramのフィードへの投稿のほかに、24時間で自動的に投稿が消える「ストーリー」という機能も2016年から追加された。

 運営会社のFacebook日本法人の発表*1によると、2019年6月7日国内の月間アクティブアカウント数が3300万を突破。(2019年3月時点)国民のおよそ人に1人はInstagramユーザーという計算になる。また、2017年の新語・流行語大賞には、Instagramの投稿のために写真を映えさせるといったことを意味した「インスタ映え」が選ばれるなど、幅広い世代に浸透しているSNSである。

 カリスマブロガーやYouTuberといった職も世に受け入れられてきている昨今、Instagramおいて強い影響力を持つ人を指すインスタグラマーという言葉もちらほら見かけるようになった。「◯人のフォロワーがいたらインスタグラマーという称号を貰える」という公式のルールはないが、一般的には1万人超えあたりから有名になってきて、次第にインスタグラマーと呼ばれるようになる。YouTubeでは、たった1つでも動画を投稿することでYouTuberと名乗ることができる反面、インスタグラマーはフォロワーの数が人気のバロメーターとなっており、多くの人からの支持があっての職業となっている。

 今回、普段は大学生として学校に通っている傍ら、Instagramを使ってインフルエンサーとして活動している二人に取材してみた。普段は同じように学生として生活している一方で、Instagramでは多くのフォロワーを抱え、支持を受けている二人。どのような経緯でインスタグラマーになったのか、インフルエンサーならではの投稿内容についてのこだわりなどについても質問していく。

・自分が発信した内容で誰かに影響を与えたい

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↑爽やかな笑顔が似合う日賀野舜さん

 まずお話を伺ったのは武蔵大学経済学部1年の日賀野舜さん。高校生の頃は野球に打ち込む高校球児。栃木県大会ではベスト8の成績を収めるなど野球漬けの毎日を送っていた。

 そんな日賀野さんがInstagramをはじめたのは野球部を引退した高校3年生の夏。現在のフォロワーは1834人(2020年1月時点)、一般人でフォロワー数が4桁に乗るというのはなかなか珍しい。

 フォロワーが増えたきっかけを聞いてみると、

高校野球の影響で地元や野球で繋がった人はかなり多かった。Instagramをを始めた日から1日に100人単位で増えていきました」

 と語る。1日に100人という通常ではありえない数字の伸びがあるのも、栃木県の注目選手であったことからだろう。

 現在は複数のアカウントを運営しており、海外留学プログラムのスタッフ、世界一周プロジェクトとや、自ら立ち上げた服のブランド「MALIPAYON」、アルバイトのアカウントも動かしている。TwitterFacebookなどもある中で一体なぜInstagramを拠点に発信をしていこうと思ったのだろうか。

「いろいろなSNSをやっていく中で、1番楽しく、自分に合っていると思いました。インスタグラマーの方とかのように映えさせるために写真を撮りに行こうとか、投稿のための写真を日頃から撮ったりなどはしていませんが、自分がやっていて1番楽しめているInstagramを使って上手く活動を広げられればいいなとは思っていました」

 Instagramの注目ポイントともいえる「映え」を意識していないという彼に、興味のあるインスタグラマーや参考にしている人はいるのかと訊いてみると、「まったくいない。誰かの投稿が見たい、というより単に自分を表現するツールとして使っています」と語っていた。

 そんな人に固執しない、サバサバしているところが、人脈が枝状に広がり、支持されている大きな要因なのではないだろうか。最近では、LINEを教える前段階としてInstagramのアカウントを交換するという風潮がある。

 日賀野さんも、その風潮は感じているそうだ。

「投稿がおしゃれだと、その人の生き方もお洒落に感じる。だから自分も人に見せたときに恥ずかしくないようにある程度を保つようにはしている」

 もはやファッションの一部のように、名刺のように使われているInstagram、彼の投稿には高画質で楽しそうな写真が並んでおり、初対面の人にはかなり好印象を与えるだろう。

 最後に、自らの服のブランドやアルバイトのアカウントの運営などでも利用しているというInstagramをビジネスの視点で見てみて、これからも流行り続けると思うかを聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

「僕はそろそろブームは終わるのではないかなと思います。Instagramは元から有名な人だったり女の子が多かったりと、一般人、ましてや男の子はあまり伸びる世界ではないと感じました。また以前のようにTwitterに戻るのではないでしょうか。純粋にInstagramには拡散力が少ないので、RT機能もあるTwitterの方がインフルエンサーになりやすいと思います」

 物事にはブームが付き物だが、大人気のInstagramが終わりを迎える時はくるのだろうか。実際に体験している日賀野さんならではの意見は面白い観点であった。

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Instagramの投稿。雑誌のようなコラージュ、ユニークな見出しは目を引く。

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↑日賀野さんの立ち上げたブランド「MALIPAYON」で販売しているロングTシャツの写真

 

・なんともない日常からInstagram中心の生活へ

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佐藤香織さん

 次にお話を伺ったのは、某私立大学2年生の佐藤香織さん(匿名)。2018年、大学内のミスコンに出場。惜しくもグランプリは逃してしまったが、その後事務所にスカウトされ、今では飲料メーカーや人気アパレルブランドのモデルを務めるなど目覚ましい活躍である。

 ミスコン用に作ったInstagramのアカウントのフォロワーは瞬く間に3000人に達する。現在開設しているアカウントのフォロワーは5500人を突破した(2020年3月時点)。

 佐藤さんのInstagramの原点は、中学生3年頃だという。周りの子と同じように友達と遊んだ写真や旅行の景色などを載せていた、至って普通のアカウントであった。そんな彼女のInstagram人生の転機となったのは、大学1年生の頃に出場した大学のミスコンである。

 普段使っていたアカウントとミスコン用に作成したアカウントで投稿の内容に変化はあったのだろうか。

「ミスコン前までは、本当に周りの子と同じように楽しかった出来事などを投稿していて、

「『いいね!』の数などを気にしたことはなかった。だけど、ミスコン用に作ったアカウントはメインが自分をアピールすることなので、撮ってもらった写真や自撮りを載せてました。はじめは恥ずかしかったです(笑)。でも勝ちたかったので、そんなことは気にしてられません! 企画では、『いいね!』の数を競うバトルもあったのでどうしたら『いいね!』を貰えるかとかもずっと気にしてました」

 

 フォロワーの数や『いいね!』の数が増えてくるようになってからは、どうしたら多くの人の目に留まるか、飽きられることなく、自分のファンになってもらえるかと、投稿頻度や時間も気にしたという。

「元からそこそこのフォロワーを抱えている人脈の広い人や、インスタグラマーやサロンモデルで人気の方達との競争だったので、普通の大学生だった自分は出来るだけ毎日投稿して、普段の飾らない自分の素を見せているふうな作戦に出ました。時間は正確に決めていたわけではないのですが、投稿するなら昼頃か夜11時頃を目安にしていました。昼頃は学生の人達がお昼ごはん中とかでスマホを開きやすいのでそのときに目につくように。夜はご飯やお風呂とかでバタバタする7〜9時頃は避けて、寝る前のゴロゴロする時間帯を狙ってました。結構投稿の時間帯によって『いいね!』数とかも左右されますね」

 彼女にとってのInstagramとは、自分を表現できる唯一の武器であった。時間帯や投稿頻度など、戦略立てて発信していた佐藤さん。旅行先やお洒落なカフェでの写真など、どちらかというと学生感のない非日常的な投稿の多い候補者に比べて、毎日の飾らない自分を投稿し続ける彼女に惹かれるのは時間の問題であった。毎日少しずつフォロワーが増えていき、最終的にはミスコングランプリに次ぐフォロワー数になっていた。

 「ミスコンが落ち着いた今でも、投稿には気を配るか?」と聞くと、「もう常に見られている感覚は抜けない」と笑いながら語る。

「ミスコンの時みたいに敏感に『いいね!』の数気にしたりすることはなくなったので、投稿時間も内容も結構自由にやってます。事務所に所属したこともあり、嬉しいことにお仕事もいただいているので、お仕事関係の投稿が多くなってしまいますね」

 写真投稿の際の説明欄で、メッセージの末につけるハッシュタグが、多いときには20個を超える佐藤さん。数や言葉にこだわりはあるのだろうか。

「ミスコン前までは、『ハッシュタグは多くつければつけるほどインスタグラマー気取り』みたいな印象だったので、恥ずかしくてあまりつけていなかったのですが、今は自分で言うのは恥ずかしいですがまぁまぁなフォロワーの方に支持してもらっているので……投稿に関係している言葉をとにかく色々な方面で付けて、検索したときに誰かの目に留まるようにしています」

 今やってる仕事のほとんどがInstagramで声を掛けて頂いたものだそうだ。商品を提供してもらい、実際に使ってPRしたり、サロンモデルのお仕事をしたりなども色々な仕事こなす彼女にとって、ハッシュタグは重要な役割を担っている。

 ミスコンに出場、事務所からのスカウト、いろいろな企業から仕事をもらい、たくさんの人から支持を受けている佐藤さん。順風満帆そうにみえる彼女にも、Instagramを利用している中で、今でも記憶が鮮明に残っているほどに悲しかった出来事があったという。

「今のアカウントは自分の何気ない日常も載せていて、いつも投稿に対してありがたいことに沢山のコメントを頂きます。ある日、友達と遊んだときのツーショットを載せたことがあったのですが、コメントで『香織の方がかわいい!』、『やっぱり一般人とは格が違う!』と複数友達を下に見るようなコメントが来ていて、一緒にいる友達からしたら何も悪いことをしていないのに、全然知らない人に自分のことを悪く言われているように感じますよね。その子は笑い話にしてくれたのですが、一歩間違えたら大切な友達を失うところでした。もっとそういう所も気を配らなければと、自分の考えの足りなさに悲しくなりました」

 自分のせいで、何も悪くない友人を傷つけてしまったこの出来事は今でも心に残っているそうだ。芸能人ではないが、応援してくれる人がついている一般人ともいえない微妙な立ち位置。SNSの難しさを考える瞬間であった。

 佐藤さんの今の目標は、学業をおろそかにしなこと。あくまでもインフルエンサーのお仕事は二足目のわらじということで、今は目標であるお仕事につけるように学業を第一に試験に向かって頑張っている。取材の前後で、テスト勉強の大変さについて話した時は、同じ学生である事を再認識した。合間にはファンの方から頂いたコメントにきちんと返信しており、二足のわらじをきちんと履きこなしている姿に心を打たれた。決して驕らず、謙虚な姿を見て応援したくなる人は多いだろう。

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↑成人式の時の写真の一枚。きらびやかな振袖とデザインの凝ったネイルを、一枚の写真の中でうまく魅せている。


・二人のインフルエンサーにお話を聞いてみて、そしてこれからのInstagramの展望

 お二方に取材をしてみて、どちらもInstagramというSNSを自分を表現する1つのアイテムとして上手に使いこなしている印象を持った。旅行先での綺麗な風景の写真や自分のブランドの服の宣伝、常に複数のアカウントを同時に動かしている日賀野さん。それに対し、サロンモデルやモデルの仕事で撮ってもらった綺麗な写真、すっぴんの状態やパジャマを着ている自撮りなどの投稿で、同世代の女の子の憧れはもちろん、その可愛さから男性のファンも虜にする佐藤さんの投稿。性別や投稿内容は違えども、フィード画面を見たときの、系統の揃った画面は一般人離れしており、一目でインスタグラマーであろうということが伝わってくる。

 「映える」かたちを取らずとも、自らの発信していく内容に共感の声があがり、若者を中心に支持されていくタイプと、「映える」を意識した投稿内容に憧れを持たれ、自然とファンが増えていき、幅広い世代から支持を受けるタイプ。Instagramを利用したインフルエンサーと一言にいっても様々な系統やタイプがあることを知った。

 スマートフォン1つで手軽に始めることができ、上手くいけばインフルエンサーになり得ることができるInstagramにおいて、その手軽さからインスタグラマーになろうとする人はかなり多い。その中で、頭ひとつ抜けるというのはかなり難しいのではないかと思う。広い人脈を持った日賀野さんは別としても、佐藤さんはミスコンという多くの人の目に止まる舞台に出たことと、投稿内容や時間などの戦略を立てるという地道な努力の末にインフルエンサーになった。

 また、二人は学生という本業を怠らずにInstagramを活用できているが、常に複数のアカウントで様々な情報を発信したり、映えることを考えて生活したり、というのは簡単に真似できることではない。二足のわらじを履くというのは簡単なものではなく、それなりの覚悟が必要だろう。日賀野さんが言っていたように、いつInstagramのブームに終わりが来るかはわからない。ブームが終わったときに困ることのないように、世間に取り残されることのないように、上手く使い方を考えなければいけない。依存するのではく、そのときの流行りに乗って上手く移動できるようなフットワークの軽さもインフルエンサーになる共通の条件なのかもしれない。

 学生とInstagramを使ったインフルエンサー活動の二足のわらじを履くことに成功している二人。多くの人の支持を受け、様々な道の選択肢が増えている現状、学生生活が終わってからの人生も上手くやっていけるのだろうなと感じた。

 

取材・文/奥村葵

*1:https://about.fb.com/ja/news/2019/06/japan_maaupdate-2/ FACEBOOK Newsroom」(2019年7月6日付)