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武蔵大学 2019年度 後期 メディア社会学方法論ゼミ【松谷創一郎】

子どもたちが望む遊び場とは?~現代における“遊び”の変化~

 「遊び」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。おそらく、世代によって答は違うだろう。子どもの遊びは、時代とともに変化している。現代では、ゲームばかりしていることに悩む親も多い。社会環境の変化は、遊びにどのような変化を与えたのだろうか。子どもの遊び場の問題は、各自治体の重要な課題でもある。

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自然の中で遊ぶ子どもたち。

空き地や土手など、以前は子どもたちが自由に遊べていた場所は、今では立ち入りができなかったり、そのようなスペースさえ無かったりする。今の子どもたちは、児童館や学童、ショッピングモールなどを遊拠点として遊んでいる。しかし、それらの場所には様々な大人のルールが介入してしまい、課題も多い。

 例えば学童保育は、親の共働き等で需要が高まっている。一方で、指導員の数が需要に追いついておらず、学童の待機児童が問題となっている。さらに、指導者の数に対して子どもの数が多く、効率化のために質が低下している。厚生労働省によると、学童保育は「共働き,一人親の小学生の放課後の生活を継続的に保障する」役割を持っている。学童は、家庭の延長として子どもと親密な関係を築き、遊びに関わらず様々な「生活の場」の役割を果たす*1そのために、指導員の質を向上させる目的で2015年から指導員に資格取得者が必要になるなどの取り組みが行われている。しかし、それがかえって指導員のハードルをあげることとなってしまっている。

【冒険遊び場「プレーパーク」】

 株式会社バンダイの小中学生への遊びに関するアンケートによると、小学5、6年生から遊びの内容は「ゲーム」が1位になっている。さらに、遊ぶ相手については1位が「一人で」、2位は「学校の友たち」、3位は「親」となっている。この結果から、現代の子どもたちの遊びが限定的になっていることが伺える*2

 遊びは、子どもの身体的、精神的な成長に大きな役割を果たすものである。身体的な成長は分かりやすい。例えば鬼ごっこでは、足腰の強化や機敏性などが鍛えられ、縄跳びは全身の筋肉、骨の強化とともに心肺機能の向上も見込まれる。外で体を動かすことは、直接的に身体の成長に繋がっている。一方精神的な成長は、様々な事柄を実際に体験することで育まれる。

 子どもの遊び場、そして地域のコミュニティの場として全国に広まっているのが、プレーパークだ。プレーパークの起源は、1943年にコペンハーゲン市郊外につくられた「エンドラップ廃材遊び場」である。整えられた遊び場よりも、廃材置き場で楽しそうに遊ぶ子どもたちを見て、造園家のソーレンセン教授が提案した。週に一回などの定期開催から、毎日開いている常設開催と形態は様々で、日本では1990年代後半から徐々に広まっていった*3

 プレーパークには、「プレーリーダー」が常駐しており、子どもたちの遊びを手助けしている。多くの大人たちも訪れる。

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園内に張り巡らされているキウイ棚。子どもたちは自分で収穫して食べることができる。

 「実際に土を触ったことのない子って、どのくらい固めた泥団子を投げられたらどのくらい痛いのかが分からないんですよね。地面を掘ったら湿った土が出てくるっていうのも、掘ってみないとわからないし」

 そう語るのは、東京都練馬区のプレーパーク「練馬区立子どもの森」の佐々木康弘さんだ。3年前までプレーリーダーをしていたが、現在は運営に回っている。子どもの森は「自然×冒険×交流」をコンセプトとして、練馬区の自然を活かして作られている。園内の遊具、遊び道具はほとんどがプレーリーダーの手作りで、季節によって新たな遊具が登場する。豊かな自然の中で、幅広い年代の人たちが交流できる地域の憩いの場となっている。

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子どもの森入口。

 筆者が取材に伺った日は、練馬区の緑化協力員の方々によるクリスマスの飾りづくりのイベントが開かれていた。

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どんぐりや枝を使ったクリスマスオーナメント。他にも松ぼっくりクリスマスリース等を作ることができる。

子どもたちが創造力を働かせてユニークなオーナメントやクリスマスリースを作り、小さな子どもからその保護者、高齢者の方まで幅広い年代の人たちが交流していた。このような縦のつながりがあるのも、プレーパークの特徴である。

 佐々木さん自身、子どもたちの遊びの変化を日々感じるという。

「ゲームはやっぱりみんなしますね。ここに来る子たちもゲームを持ってきてやっています。ゲームがダメとは言えません。今の時代、そこって避けられないと思うし」

 自然の中で遊ぶことの楽しさを子どもたちに知ってもらうため、子どもの森では様々なイベントを開いている。

子どもの森の一角には畑があり、「農園マスター」と呼ばれる子どもたちが自分の手で野菜を育てることができる。2か月に一回開催される「たき火でランチ会」では、農園マスターたちが育てた野菜を自ら収穫し、たき火で調理して食べることができる。このようなイベントは、五感(見る,聞く,嗅ぐ,触る,味わう)を刺激することで子どもたちの記憶に残りやすい。野菜の収穫や料理の過程で交わされるコミュニケーションは、子どもたちの社会性を育んでいる。

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自分たちで火をおこし、収穫した野菜でお味噌汁や炒め物を作る。

 子どもの森は、子どもたちがさらに自由に遊べるように、敷地の拡大も予定している。このような積極的な取り組みができるのは、区で運営する数少ないプレーパークであることも関係する。一般的にプレーパークは非営利団体が運営する場合が多いが、練馬区は子どもの遊びに重きを置いており、子育ての環境も整っている。

【子どもたちが失った「さんま」】

 佐々木さんよると、今の子どもたちには「さんま」がないという。「時間」「空間」「仲間」を指す「三間」のことである。

「時間」がない原因は、習い事や学習塾にある。学研総合教育研究所の調査では、1989年に習い事をしている子どもの割合は39.1%であったのに対し、2019年は80.4%にまで増加している。習い事をしている子どもたちの割合は倍になったことが分かる*4

 「空間」がない原因は、地域の目が厳しくなったことが原因と考えられる。公園の禁止事項(焚火、ボール遊び等)は増えており、遊具は撤去されている。子どものためにとやっていることが、子どもから遊びを奪ってしまっている。

 「仲間」がない原因は、塾や習い事に通う子どもが増えたことが原因だ。先ほどの子どもアンケートにもあったように、今の子どもたちは一人で遊ぶことが多い傾向にある。ゲームが楽しいから結果的に一人の遊びになるのか、遊ぶ相手がいないからゲームをするのか。最近のゲームは通信機能が発たちしたことによって広い社会との関わりを容易に持つことができる。インターネット上でのコミュニケーションという意味でいえば、子どもたちは昔よりも広いコミュニティを築いているのかもしれない。

 人間の発たち過程について、心理学者の西川泰夫は、スイスの発たち心理学者ジャン,ピアジェの知見を用いて次のように説明している。

生成過程は、基本的に4つの段階、これを操作期というが区分される。それは、運動一感覚操作期、前操作期、具体的操作期、そして形式的操作期の4操作期が区分される。その各々の操作期において何が変化するのかというと、知の中核におかれる図式(シェマ)が発揮する機能を支える論理関係構造の各段階に固有にみられる変化である。なお、この図式の変化を生じさせる契機となるものは、認識対象である外界事象との間の相互作用、往復作用、図式の適用(同化作用)とそれにともない生じるずれの調整(調節作用)、認識の適否の検証に基づく図式自体の構造的変化、生成をもたらすフィードバック作用である*5

 つまり、子どもは人、もの、環境など、外部と接触し、自分の認知とのすり合わせを行う。その過程で認知の調節をすることで成長する。全てを掌の中で済ませることのできることは非常に便利だが、子どもの成長の過程の中では実際に見て、聞いて、触れて、訪れることが必要である。

 身近な人との対面コミュニケーションの中で培われるものは、社交性だけではない。今の子どもたちの仲間の状況について、佐々木さんは「昔は家に行って誘ったら遊べていたけど、今の子どもたちはそういう子がいないみたいなんです。みんな塾や習い事をしているから。でもここに来れば遊べる場所があって、遊べる子も大人もいるので」と述べる。

 「三間」に加えて、もう一つの間が失われている。「すき間」だ。物理的なすき間だけでなく、子どもが言いたいことを言えなかったり、やりたいことができなかったりという、社会の子どもへの寛容さがなくなっている。少子高齢社会の日本では、子どもはマイノリティだ。高齢者への配慮や取り組みは多く見られる一方、どれだけの人が子どもの遊びに目を向けるだろうか。

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羽木プレーパーク内の手作りブランコ。

 

【日本初のプレーパーク】

 そもそも遊びには、目的や意図なく自発的に、心を充足させるために行うことである他、物事にゆとりのあることという意味がある*6。また、仕事の対義語ともいわれる。子どもにとっての「遊び」は成長に欠かせない、学びのような側面も持っており、「子どもは遊ぶことが仕事」と言われるのはこのようなことが理由かもしれない。しかし、大人たちの心のゆとりといった意味の「遊び」も不足していることは、子どもの遊びに大きく影響している。

「何が変わっちゃったんだろうね。モノは充実したけどね、昔に比べて」と話すのは、「プレーパーク羽根木」のプレーリーダー、まっくさんだ。

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リーダーハウスの壁に書かれている、子どもたちに向けた文言。

 プレーパーク羽根木は、東京都世田谷区に位置する日本初の施設である。多いときは一日200人以上の人が訪れる。住民と世田谷区が協働して運営しており、区内にはここを含め現在4つのプレーパークがある。

「ここはプレーパーク発祥の地ということで、今年で40年を迎えました。子どもたちがやりたいことが自由にできる環境ですね。普通の公園は遊具を造ったらそれで終わりだけど、ここは自分たちで造った遊具がどういうふうにつかわれているのか分かるので、子どもたちやプレーワーカーたちがこういうのがあったらいいなっていうものがあったら、形を自由に変えていけるっていうのも一つの特徴です」

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プレーリーダーと子どもたちで新たな遊具を造っている様子。

 敷地内にある遊具はすべて、プレーリーダーの手造りだという。さらに、事務局であるリーダーハウスも、昔の電信柱などを使ってプレーリーダーや地域の人たちで造ったものだ。子どもたちが屋根の上に登って遊ぶこともできる。

 プレーパークでは、子どもたちの「やりたい」を大切にしている。落書きをしたい、木に登りたい、ぼーっとしていたい。もちろん、習い事で体力面や知能面を養うことはできるが、子どもたちの創造力を養うには、やはり子ども自身から生み出される「やりたい」を大切にすることが重要なのだ。プレーパークはそのほとんどが屋外である。自然の中での遊びには限度がなく、子どもたちの遊びは次から次へと発展していく。

【時代に合わせた遊び場づくり】

 現代の子どもたちの遊びについてプレーリーダーの話をもとに見てきた。「遊び」という言葉の中に様々な意味があり、鬼ごっこも、ゲームも、おしゃべりもすべて含まれる。プレーパークでは、子どもたちの創造力を発揮させ、やりたいことを自由にできる。今回お話を伺ったプレーパークがある練馬区、世田谷区は子どもの外遊びを地域全体で推奨している。

 実際に公園の数は減るどころかむしろ増えている*7。増加する公園と、外で遊ばなくなった子どもたち。まっくさんはこの関係について、「公園という環境と、子どもの遊びのニーズがあっていないのかもしれない」と述べる。実際に、世田谷区内にも公園は多数あるものの、閑散とした雰囲気だという。

 プレーパークが世代に関わらず多くの需要があるのは、プレーリーダーが人と人を繋ぐ役割を担っているからではないだろうか。個人間のつながりが薄れている現代の遊びには、プレーリーダーのような媒体が必要なのだ。モノに不足ない時代を生きる子どもたちにとっては、遊ぶためにわざわざ公園に出向いていく必要を見出すことが難しい。そしてその公園は、自由に遊ぶにはルールが多すぎる。プレーリーダーたちは、遊びを提供する側であるのと同時に、遊ぶ側でもあるからこそ子ども目線の遊び場づくりが実現できる。不寛容になった社会の中で、子どもたちが自由に遊ぶための環境をつくることが必要だ。

 

取材・文/斎藤くるみ

*1:真田裕,「学童保育の目的,役割がしっかりと果たせる制度の確立を ~ 一人ひとりの子どもたちに『安全で安心して生活できる学童保育』を保障する ~」 ,厚生労働省、2009年https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/07/dl/s0728-8b_0001.pdf

*2:バンダイこどもアンケートレポートvol.243「小中学生の”遊び”に関する意識調査」結果https://www.bandai.co.jp/kodomo/search_2018.php 、2018年

*3:特定非営利活動日本冒険遊び場づくり協会ホームページ「冒険遊び場づくりの歴史http://bouken-asobiba.org/know/worldhistory.html、2020年1月22日確認

*4:学研総合教育研究所「小学生白書Web」1989年https://www.gakken.co.jp/kyouikusouken/whitepaper/198900/chapter6/01.html2019年https://www.gakken.co.jp/kyouikusouken/whitepaper/201908/chapter7/01.html

*5:西川泰夫,「心理学論考ノート : 『ヒト』はいかに『人』にな るか : 知性の生成変換過程とその数理構造」,放送大学研究年報,27巻,35~54頁,2010https://ouj.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=7530&item_no=1&page_id=13&block_id=17

*6:池上秋彦,金田弘,杉崎一雄,鈴木丹士郎,中嶋尚,林巨樹,飛田良文,「デジタル大辞泉」,小学館,2012

*7:都市公園データベース,「都道府県別の都市公園等の箇所数の推移」http://www.mlit.go.jp/crd/park/joho/database/t_kouen/pdf/10_h29.pdf 2020年1月22日確認