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武蔵大学 2019年度 後期 メディア社会学方法論ゼミ【松谷創一郎】

フィルムカメラの再ブーム 〜なぜ不便なものを使っているのか〜

    フィルムカメラの再ブーム]

 近ごろ様々なところでフィルムカメラに関するものや写真をよく目にする。SNSではフィルムカメラで撮影した写真が多く投稿されている。「#写ルンです」や、「#フィルムカメラ」、「#フィルムカメラに恋してる」や、「#filmphotography」など、フィルムカメラに関するハッシュタグが多く存在している。Instagramの投稿数からしても、「#写ルンです」は78.1万件、「#フィルムカメラ」は218万件、「#filmphotography」は約2000万件と、沢山投稿されている(2020年1月現在)。

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【#写ルンです での検索結果(2020年1月)】

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【#filmphotography の検索結果(2020年1月)】

 またファッション雑誌の写真やアーティストのミュージックビデオでも、鮮明な写真や映像ではなく少し荒くフィルムっぽくなっているものもよく目にする。生活雑貨を扱うお店では使い捨てフィルムカメラ写ルンですのブースが設置してあったりと、生活の中でも目にすることが明らかに多くなったと感じる。

 普段私たちは日常生活の中で写真を撮りたいときには、スマートフォンで撮る。よりしっかりと撮りたいときには、画質の良いデジタルカメラや一眼レフで撮る。にも関わらず、なぜフィルムカメラが再ブームしているのだろうか。

フィルムカメラの魅力]

 Instagramを利用している中で、よくフィルムっぽい写真を目にするので、フィルムカメラの写真をInstagramにあげている友人に写ルンですをいつから始めたかを聞くと、以下のような答えが返ってきた。

Aさん(大学生・女性) 去年から、友達の影響

Bさん(大学生・女性) 去年の夏(7月の終わりくらい)大学の友人

Cさん(大学生・女性) 3~4年前、奥山由之の写真展に行って興味がわいた

Dさん(大学生・女性) 去年の6月8日、時代の流れ的に

Eさん(大学生・男性) 2年半前

 また、その中でも写ルンですとはべつのフィルムカメラを使用している友人に、いつ頃から誰の影響で始めたのかを聞くと、

Bさん(大学生・女性) 去年の夏(8月の真ん中くらい)

Cさん(大学生・女性) 2年前の7月、友達や先輩が持っている人が多かった

Dさん(大学生・女性) 去年の7月19日、友達の影響

Fさん(大学生・男性) 5年前 いとこ

という回答になった。

 この回答からも分かるように、ここ1年〜2年でフィルムカメラを使い始めた人が大半である。そして写ルンですを使い始めてから、フィルムカメラに手を出す人が多いことが質問から読み取れる。

 私自身も中学生の頃に写ルンですを初めて使い、高校生の頃に写ルンですにハマった。私の使い始めたきっかけは、中学校では携帯電話を回収されていたので、課外授業のときにデジタルカメラ写ルンですを持っていき、写真の色合いやどんな写真が完成するかというワクワク感を味わい、文化祭などイベントで持っていくようになった。

 そこで、なぜフィルムカメラを使っているかを聞くと以下のような回答だった。

Aさん(大学生・女性) スマホで撮るよりも写真の質感がいいから

Bさん(大学生・女性) 大事な思い出を残したいから

Cさん(大学生・女性) 写真としての価値がより高まるから

Dさん(大学生・女性) 現像するまでのどきどき

Eさん(大学生・女性) 90年代(又はインスタントカメラが大衆で主に使われていた時代)の再現をするため、90年代の人と同じ環境で同じことをするため

Fさん(大学生・男性) 写真を撮ってネガに焼き付けて現像する行為が好きだから

 現在、スマートフォンで写真を撮ることが当たり前になり、また昔よりも画質が良くなっていることから、逆にレトロ感のあるようなフィルムの写真にハマっていく人が増えているのではないかと感じた。スマホと違い、24枚や36枚、撮り終えるまでどんな写真になっているか分からないことも本来なら不便に感じるだろう。

 実際に使用していた親に聞くと、現像したときに半目だったりブレていたりしていることが多いし、わざわざ現像しに行かなければならなかったから不便だったと言っていた。今ハマっている人たちは、逆にそこに魅力を感じているのだ。わざわざ写ルンです、または、フィルムを買って撮り終えるまでどんな写真だか分からず、撮り終わったら現像しに行く。そのワクワク感の虜になる。

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【ブレた写真】(2020年1月撮影)

 もともとフィルムカメラは、写真を残す方法がこれしかなかったから使っていたはずだ。今で言う私たちがスマホで写真を撮るように、写ルンですフィルムカメラで撮っていたのだろう。スマホと違うところは枚数に制限があるところだ。

 

 スマホだと写真を何枚でも撮りまくれ、連写もできる、そのような撮り方をしている私たちにとっては、枚数に限りがあるフィルムカメラを使うことは一枚一枚が貴重な写真になる。そして画面をタッチすればピントを合わせてくれ、フラッシュも光りすぎることは滅多にないようなスマホに比べ、使い捨てフィルムカメラではピントを合わせることもズームをすることもできない。自分で撮りたいものに近づかなければならないのだ。フラッシュも光が強すぎて顔が白くなりすぎてしまったりする。だが、それさえも懐かしみのある写真だと感じる。

 フィルムカメラでなぜ撮っているかを質問したなかに「写真をとってネガに焼き付きて現像する行為がすきだから」という意見もあった。現像した写真自体にも良さを感じ、またフィルムカメラをいじって撮るという行為にも魅力を感じているのではないか。

 フィルムカメラを接してこなかった私たちの世代からすれば、古いものであってもそれは逆に新しいものという感覚になる。

[なぜこんなに流行ってるのか]

 ブームなっていることは売り上げからも伝わってくる。

 新宿にある中古カメラ屋・BOXでも、代表の田中振男さんは「ここ1年で確実にコンパクトフィルムカメラを買っていくお客さんが増えた」と言う。また驚いたことにここ1、2年は、観光客からも人気だそうだ。ヨーロッパの方もたまに買いに来られるが、特に中国人や台湾人の方が買いに来られることが多く、その中でも女性が買うことが多いという。それは日本人も観光客も含めての話だ。

 実際に私が去年の夏休みにBOXを訪れたときには、中国人の観光客がコンパクトフィルムカメラのブースを囲っていた。また取材させていただいた日にも、オーストラリア人の女性がコンパクトフィルムカメラを買っていた。

 このことから日本の若い世代の人たちだけではなく、世界的に流行っているのではないかという考えが浮かぶ。実際、前に述べたようにInstagramハッシュタグ、「#filmphotography」には約2000万件の投稿があるわけで、そこから投稿へ飛ぶと多くの外国人がフィルムカメラで撮った写真を載せている。

 なぜこんなにも流行っているのか。

 一つの理由として、常連の方は「お手頃な値段で買えるというのもあると思う」という。たしかに一眼レフカメラなどに比べて、使い捨てフィルムカメラは1500円前後、安いコンパクトフィルムカメラは中古で5000円ほどで買える。そのような点ではお手頃で買いやすい。

 それに加え、コンパクトフィルムカメラは簡単に撮ることができるのも流行る理由の一つだと考えた。オートモードの場合、ボタン一つで撮ることができる。あとはフラッシュを焚く場合、ボタンを操作するだけだ。そしてスマホデジタルカメラのようにすぐに撮った写真をみたり、削除したりすることができない。現像してから「構図がうまくできた」や「光すぎて失敗したな」と気づくのである。

 中古カメラBOXでも「スマホが一通り出回ってもう飽きたから、だからフィルムに移行したのではないか」と言っていた。スマホで簡単に写真を撮ることに慣れた人たちにとって、カメラの知識がなくても撮れるコンパクトフィルムカメラは趣味になりやすいのではないか。

 若い人たちの中で流行っているなか、このブームは続くかという質問をすると、「続けたいけど商品がない。あっても高くなる」と話していた。昔は3000円くらいの値段の商品が沢山あり、買う人も少なかったけれど、最近は人気でどんどんコンパクトフィルムカメラの在庫が減ってきているそうだ。在庫が減ってしまえばそれだけの価値がつき、値段が高くなってしまう。いつなくなるかも分からない。

 またコンパクトフィルムカメラでカメラの面白さを知り、レンズを替えらるものが流行るのではないかという話も出た。「オールドレンズを使うことで臨場感のある写真が撮れる」とおっしゃっていたが、確かに私もここで様々なカメラや、フィルムカメラで撮った写真を見せてもらい、奥が深くカメラのことをもっと知りたいと思った。またスマホのアプリでフィルターをかけて撮るのと同じように、それを道具を使ったりして行っているのだ。レンズの前にザルや手の隙間、ストッキングなどを使ってフィルターをかけていた。タッチするだけで加工できてしまうものとは違って、あるものでフィルターをかけていく。またフィルターによっては光ボケを星形に輝かせたりと様々なものがあることを知った。

スマホフィルムカメラ

 なぜ不便なフィルムカメラを使っているのかに関しては、やはりスマホで撮るということに対して慣れた若者たちだからこそ流行っているのではないか。何枚でも撮りまくれるスマホと違って、枚数に限りがあるフィルムカメラは面白い。ブレたり光りすぎてしまった失敗した写真も、それがまた味のある写真のように思える。

 そして、それをシェアする場がある。Instagramのように撮ったものをすぐに皆に見せることができるのは、ブームを助長させた一つだ。現像してくれるお店に行くと、プリントではなくスマホに画像を転送してくれるシステムもある。BOXの代表は「プリントをして色褪せていくのもいい」と言っていたが、若い世代ではあまりプリントをする人はいない。

 フィルムカメラを使っている方たちに現像はプリントしていますか?スマホ転送だけですか?という質問をすると

Aさん(大学生・女性) 基本はスマホ転送、たまにプリントもしてる

Bさん(大学生・女性) スマホ転送のみ

Cさん(大学生・女性) プリントしないことが多い、DVDに焼いている

Dさん(大学生・女性) スマホ転送のみ

Eさん(大学生・女性) スマホ転送して良いショットだけプリントする

Fさん(大学生・男性) スマホ転送

 という答えだった。

 やはりプリントではなく、スマホ転送が主流になっていた。今の時代に沿ったサービスをしてくれていることも流行った要因の一つだ。

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【ファインダーの覗き穴をスマホで撮った写真】(2019年2月撮影)


[ブームの行方]

 フィルムカメラを使用している人への質問で、ここ1年~2年でフィルムカメラを使い始めた人が多いことが分かった。また使い捨てフィルムカメラ写ルンですでその魅力に気づき、コンパクトフィルムカメラを買う人も多かった。近頃人気ということは中古カメラ屋・BOXへの取材からも分かり、代表の方はここ一年で確実にコンパクトフィルムカメラを買う人が増えたと言っていた。また観光客もよく買いに来るということから、日本だけでなく世界的にブームになっているのではないかと考える。

 そして今、スマホで撮るということに慣れ、フィルムカメラを触ったことのない世代が、逆に新しいものといった感覚で使用しているのだ。つまり、まだ触れたことのない世代の中で流行る可能性もあるということだ。ただ、このブームは続いていくのかもしれないが、コンパクトフィルムカメラの在庫に限りがあるから難しい問題でもある。

 何がまたリバイバルブームを起こすか分からない。今私たちが触れているものが、いつか古いものとしてその時代の流れとマッチして流行るかもしれない。

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取材・文/遊佐瑞季