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武蔵大学 2019年度 後期 メディア社会学方法論ゼミ【松谷創一郎】

白黒つかないプラスチック問題 ~便利な暮らしと不透明になる私たちの未来

 2019年4月、茨城県つくば市でプラスチックゴミ(以下、プラゴミ)の分別回収が始まった。商品のパッケージである「プラスチック製容器包装(以下、プラ容器)」が対象だ。回収日は月に二回。収集されたプラ容器は、日本容器包装リサイクル協会を通して、選定されたリサイクル業者の下で再生される。

 つくば市で分別回収されるプラ容器とは、商品を保護するために使用するプラスチック製の容器や包装を指す。レジ袋やお菓子の外装、卵のパック、化粧品の包装容器など、プラマークのある汚れのないものが対象となる。プラ容器は、商品が消費者の手に渡った時点で不要になる、「使い捨て」の存在だ。人の豊かな暮らしの中、何気なく大量に消費されるプラ容器。些細なプラスチックは、積もりに積もって、地球規模の問題を引き起こしている。

海洋プラスチックと奪われる命

 使い捨てのプラスチックは、その手軽さ故に、ポイ捨ての対象になりやすい。街中でポイ捨てされたペットボトルやレジ袋は、側溝や川を通って、海に流れ着く。海中で分解されにくいプラスチックは、永久的に海を漂う。軽い気持ちで手放されたプラゴミは、今、海で生き物の命を奪っている。

 近年、亡くなった海洋生物の体内に、大量のプラゴミが見つかっている。

 米科学アカデミーの紀要に発表された報告によれば、1962年から2012年の間に論文で言及された海鳥135種のうち、約60%にはプラごみを摂取した形跡があり、うち29%がプラごみの脅威にさらされるとも警告している*1

海の動物たちは、プラゴミを誤って食べてしまう。石油性のプラスチックは、海中はもちろん動物の体内でも、ほとんど分解されない。生き物たちはプラゴミに胃袋を占領され、空腹感を失い、死に至っている*2

 他にも、鼻にストローが詰まってしまったウミガメの写真は、世界中の人々に衝撃を与えた。ウミガメの小さな鼻は、たった一本のストローで塞がる可能性がある。人の便利さの陰で、いくつもの尊い命が消えている。

 また、被害を受けるのは、海洋動物だけではない。海に流れたプラスチックは、私たちの体内にも蓄積しかねない。海流に乗って砕けたプラは、5ミリ以下の小さな欠片(マイクロプラスチック)になり、小さな魚の体内に取り込まれ、さらに、その魚を食糧とする魚の体内に蓄積する。やがて、無数の小さなプラスチックを体内に蓄えた魚は、人の食卓に並ぶ可能性もある。魚介類を媒体に、すでに私たちは、プラスチックを体に取り込んでいるかもしれない。マイクロプラスチックの人体への影響はまだ研究が十分にされていないが、人の体内に分解できない異物が入ると、炎症が起こり、癌の前段階となる可能性が指摘されている*3

 さらに恐ろしいことに、プラスチックは、海に浮かぶ有害物質を吸着しやすい*4 。様々な化学物質が付着したプラが私たちにどのような影響を及ぼすのか、明確には分かっていない。しかし、二枚貝からプラスチック繊維が検出されるなど、その脅威は遠くはなさそうだ*5。人が消費し手放したプラスチックは、有害物質と共に、人の体内から検出されることになるかもしれない。

海洋プラスチックと日本の責任

 2016年のダボス会議で、2050年までに海中のプラスチックが、魚の量を上回ると警告された*6。海洋プラの原因は、ポイ捨てだけではない。その主な放流元は、アジア諸国の海岸と指摘されている*7 。日本の海岸から大量のプラスチックが流れ出ているわけではないが、日本は発展途上国のプラゴミ放流に深く関与している。

 日本は2016年より、発展途上の中国やタイに、資源としてプラゴミを輸出してきた*8アジア諸国は安価に手に入れたプラスチックを、新たな製品に再生することができる。また、石油が原料であるため、エネルギーに変換することもできる。日本政府はあくまで、プラゴミを資源として輸出する立場をとる。

 しかし、日本から輸出されたプラゴミが、すべて資源として使えるわけではない。輸出される物の中には、状態の劣悪なプラスチックも含まれる。再利用するには、泥などの異物が取り除かれた好状態にあるプラスチックが対象になる。リサイクルに不適切なプラゴミは、日本でも外国でもゴミになってしまう。

 先進国の消費者はプラスチック製品を分別してリサイクルに回したつもりでいるが、実際には洗浄やさらなる分別が必要なものも簡単に処理して途上国へ押し付ける例が多い。適正なリサイクルやごみの削減の努力よりも往々にして安上がりだからだ。一方、受け入れた東南アジア諸国でもプラごみは適切にリサイクルされず、たいていは焼却されるか埋め立てられ、そのまま自然環境に放置される場合もある*9

このような発展途上国の現状にもかかわらず、先進国は自国のプラスチックを貧しい国々に輸出し続けてきた。日本やアメリカをはじめとする国々は、資源と称してプラゴミをアジア諸国に輸出。使い捨てプラの消費量の多い国ほど、その処理を海外への輸出に依存してきた。

 そんな国際間のゴミ貿易は、徐々に変わりつつある。2017年より、中国はプラゴミの禁輸措置を始めた。タイやベトナムなどの他アジア諸国にも、プラゴミの輸入規制は広まりつつある。日本は、これまで外国に輸出していたプラゴミを、国内で処理することになる。早急な対策が叫ばれる。

環境省の動き

 環境省は、使い捨てプラの削減やリサイクルにどのような策を講じていくのだろう。環境省環境再生・資源循環局総務課リサイクル推進室の永元雄大さんは「2020年7月に始まるレジ袋の有料化義務化は、その一歩。プラスチックの価値を見直して、必要なら(便利なレジ袋に対して)お金を払うというようにしたい」と話す。プラスチック容器包装の一人あたりの使用量が、世界で二番目に多い日本。レジ袋を筆頭に、使い捨てプラとの付き合い方を問うていく。

 環境省は、プラスチックを大切な資源として、繰り返し使用し続ける、循環型社会を目指す。永元さんは、「サーキュラー・エコノミーを採用する考え。3Rや環境配慮型素材を推進しながら、自然環境に配慮すると共に、経済活動の発展を目標にと、考えています」と話す。

 サーキュラー・エコノミー(Circular Economy)とは、「循環型経済」の意味で、「原材料に依存せず、既存の製品や有休資産の活用などによって価値創造の最大化を図る経済システム*10」のこと。大量生産・大量消費の経済ではなく、今存在するものを、新しく作り変え、循環させることで、資源の消費を抑える社会の在り方を説いている。自然環境と人の経済活動が、共存する社会を実現しようという考えだ。

 環境省は、リデュース(減らす)・リユース(再使用する)・リサイクル(再生利用する)でおなじみの3Rを推進。また、自然由来のエコ素材の普及にも注目している。

 例えば、石油由来のプラの削減のために、使用できる代替プラは二通りある。一つはリサイクルされたプラスチック、もう一つが植物由来のバイオマスプラスチックだ。 

 バイオマスプラスチックは、光合成をして、大気中のCO2を蓄えて育った植物を原料として作られる。そのため、焼却処理されてもCO2の増減に影響がないとされ、環境に良いと注目されている。

 ただし、バイオマスプラスチックはまだまだ高価なため、普及は十分ではない。永元さんは「再生利用(リサイクルプラスチック)の方が価格的にも使いやすい。バイオマスプラスチックと組み合わせて使うなど、少しずつ取り入れられている」と教えてくれた。

企業のリサイクル製品開発

 プラとの関係を問われているのは、小売の現場と個人の間だけではない。循環型社会および新しく資源を消費して生み出すプラスチックの削減には、企業努力が必要不可欠だ。自然を消費せざる負えない経済活動を担う企業は、どのようにプラスチックと向き合うのか。

 企業が力を入れるのは、リサイクルプラスチックの利用だ。昨年12月、東京ビックサイトで開催された「エコプロ2019」にて、帝人グループはペットボトルのリサイクルフローを体験するコーナーを設けていた。

 帝人フロンティア株式会社は、ペットボトルをリサイクルした繊維を展開している。回収されたペットボトルは、細かく砕かれフレーク状(写真1)にされ、熱で溶かされビーズのような状態(写真2)になる。その後は、ヴァージンプラスチック(リサイクルでない、石油などの資源を新しく使って生み出されるプラ)と同様の工程を辿り、溶かされた状態で細長い管から押し出されることで糸状になる。さらに捲縮などの加工をされて、繊維(写真3)となる。ペットボトルが回収された時点で清潔でないと、洗浄する工程が増え、費用はかさむ。しかし、リサイクルの材料はヴァージンプラスチックとほとんど変わらず、繊維に使用できる。純度は少し劣るものの、再生製であるせいで、できない工程はない。繊維を手始めに、様々な製品に、リサイクルプラスチックが利用される未来。そんな期待ができそうだ。

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(写真1)回収されたペットボトルを細かく砕いたもの。フレークと呼ばれる。まだペットボトルの感触が残る。粉砕した切り口がチクチクする。

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(写真2)フレークに熱を加え、溶かして粒状にしたもの。ペレットと呼ばれる。フレークよりも密度が高く、少し重くなる。穴はないが、つるつるのビーズのような感触。

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(写真3)ペレットにさらに熱を加え、細長い管の中を押し出されることで、糸状になる。その後、捲縮(糸を縮れさせる)などの加工を経て、繊維となる。完成した繊維は綿のよう。

 注意して欲しいのは、ペットボトルを再利用して製品を作っても、再利用できないものを作っては、循環にはならないことだ。例えば、エコプロ2019で、帝人グループがアンケート回答者にプレゼントしたウエットティッシュ(写真4)。開け口に「回収したペットボトルからリサイクルされた繊維を使用しています」と書かれているが、リサイクルされたウエットティッシュ自体は使い捨ての存在だ。これでは、資源が循環しているとは言えない。どこまで繰り返し使える製品を生み出せるか、また、そのための体制を作ることができるかが、今後の課題になるだろう。

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(写真4)アンケートに回答して、もらったウェットテッシュ。リサイクル素材で出来ている。市販のものと変わらない厚みがある。

一人一人のリサイクル意識

 プラスチックのリサイクルを進めるには、使った後の一人一人の行動が重要になる。現在、最もリサイクルが進むのはペットボトルだが、これからはさらなる分別が必要になる。代表になるのは、私たちが大量に消費している、プラスチック容器包装だ。

 つくば市で分別回収されたプラ容器は、選定されたリサイクル業者で再生される。現在回収されたプラ容器は、ガス化された後、炭素と水素に分離され、再利用されている。炭素はドライアイスや液化炭素ガスとして出荷され、水素は窒素と混ぜてアンモニアを製造し、洋服やプラスチック製品の原料や薬剤に使われる*11

 回収対象のプラスチックは、プラマークのついた、商品の容器包装に使われた清潔なプラスチックに限られる。汚れが落ちないものを省いても、プラ容器に分別できるゴミは想像より多い。2019年5月、つくば市の燃やせるゴミの回収量は一人当たり582.5グラム。その内、資源化可能なプラスチック(プラ容器)は5.7パーセントを占める約33グラム含まれていた *12。分別の呼びかけがまだまだ必要だ。つくば市生活環境部環境衛生課の山田耕太さんは、「現在のプラ容器の分別収集量は、一人当たり約5グラム。今、燃えるゴミとして出されている資源化可能なプラスチックの半分が分別されれば、(プラ容器分別回収量の)全国平均の19グラムを超えることができる」と話してくれた。

 さらに、燃えるゴミの中には、資源化可能な紙類も多く含まれているそうだ。ボックスティッシュの空き箱や、お菓子の空き箱、特殊加工のされていないチラシ類など、紙類に分別できるゴミも幅広い。それらの「雑がみ」は、分別回収して、リサイクル業者に売ることができる。ゴミを減らすことで、市の収益にも繋がる。リサイクルも多様化し、一石二鳥なのだ。  

 現在、プラ容器は、対象のプラスチックの幅が非常に広い。ビニール状の薄く軽いものから、化粧品のケースのような厚く重さのあるものまで、一括りになる。現在最もリサイクルしやすいプラスチックはペットボトルだが、それは一定の品質のプラスチックを集めることができるからだ。プラ容器は、対象品の種類が多く、純度にバラつきがあるため、回収できるプラスチックの品質がペットボトルよりも不安定だ。今後、プラスチックの分別数が増えれば、より循環の多様性があるリサイクルの道が開けるかもしれない。

 分別回収とリサイクルの確立よって、もう一つ解決に向かう問題がある。それは、ゴミの焼却灰の埋立地の不足の問題だ。つくば市はプラ容器の分別回収の目的の一つに、埋立地の延命化を上げている。現在埋め立てられている下妻市の最終処分場は、今のペースで行けば約5年で埋め尽くされてしまう。

 リサイクルの拡大によって、ゴミの減量が進めば、焼却の際に排出される二酸化炭素も削減できる。様々な角度から、持続可能な社会に近づくに違いない。

 世界中で起こるプラスチック問題に対する国内の動きを紹介してきた。私たちが大量に使い捨てるプラスチックは、海に流れ、海を汚し、動物たちを殺めている。日本はこれまで発展途上国にプラスチックゴミを輸出し、問題の深刻化を招いた当事者と言えよう。使い捨てプラスチック消費量世界二位の日本は、これからは循環型社会の概念の元、プラスチックの循環体制の見直しや意識改革を推し進めようとしている。

 しかし、プラスチックを循環的に使用することで、どの程度、地球の未来を延命化できるのだろうか。状況の改善に向けて、積極的な動きの一方、プラスチックの需要は増加している。例えば、2019年10月より適用が開始した「軽減税率」。お店で飲食していた食べ物を、10%の消費税を避けて、プラスチック容器に入れて持ち帰る機会は増えていないか。また、タピオカなどテイクアウトドリンクの流行・普及も、記憶に新しい。飲み物を入れる容器もストローも、ほとんどが使い捨てプラスチックだ。

 進めるべきは、循環化だけでは不十分だ。使用の削減を念頭に、人の意識改革が必要だろう。私たちの生活の豊かさの象徴である、プラスチック。人がプラスチックを完全に断つことは難しい。しかし、私たちは今、人が招いた環境問題と向き合わねばならない。無駄遣いを減らし、使ったプラスチックを大切にリサイクルする、そんな一人一人の行動が守る環境があると気づかねばならない。今年7月から始まるレジ袋の有料化で、私たちは便利なプラスチックバックの価値を見直すことができるかもしれない。環境省の永元さんは「プラスチックとの賢い付き合い方を、見直していきたい」と呼びかけていた。

 

取材・文/大山詩織

*1:アリストス・ジャージョウ「人間の未来を蝕むプラスチック危機(A Fatal Sea Of Plastic)」ニューズウィーク日本版2019年11月26日発行、18-23頁。

*2: 同上、18、19頁。

*3: 同上、21頁。

*4:同上、20頁。

*5:同上、21頁。

*6: World Economic Forum, The New Plastics Economy:Rethinking the future of plastics, January2016.

*7:環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況〈参考資料集〉」30頁。

*8:同上、65頁。

*9:マゲシュワリ・サンガラリンガム、サム・コッサー「先進諸国のごみを拒否する東南アジア(No Longer Tolerable)」ニューズウィーク日本版2019年11月26日発行、27頁。

*10:CSRコミュニケート「サーキュラー・エコノミー(Circular Economy)とは何ですか?」(最終閲覧日:2020年2月5日)https://www.csr-communicate.com/qa/20160422/csr-30176

*11:『広報つくば』2019年9月1日5面「集められたプラスチック容器包装はどうなっていくの?」。

*12:『広報つくば』2019年9月1日5面「燃やせるごみを減らすために」。